今考え中だ

こじらせ中年って多いですよね。恋愛市場引退したいような、それでいて、私だってまだまだ的な。「まだまだ、ときめいていたいっ」っていう完璧リア充も多いけど、一方で、わたしなんて、いやー、もう、でも?みたいな人も多いと思うんです。つまらない日常からどうやって目をそらしてこう?というヒントが提示できたらという作品を書いていきたいと思っています。また、考えすぎて頭がバカとか変態になっていしまった方へ向けてのメッセージも込めてます。若い人にも読んでいいただきたい!死ぬからさぁ。

また新連載5:卒女生徒

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そこまで思ったら、なんかシラッとした気分になった。そうね、確かにここまで育ったのはお父さんとお母さんのおかげ。それもある。でも途中からはお父さんお母さんに育てられながらも、たくさんの人や物ものに育ててもらった気がする。死んでしまおうかって思ったときに見たプロレスの名勝負とか。そう、そういうもの。死んでられない。生きてやる、その時はそう思ったような気もする。ありがとう、みなさん。ありがとう、弱さを見せてくれた人や物。それはわたしの、もしかしたらある「やさしさ」を育ててくれました。おしめだってありがとう。おまるだってありがとう。ご飯だってありがとう。あーーーー、つまらない。そういうことを考えてつまらないって思うの、どうかって思う。感謝の羅列をしているときにね。ほんとどうかと思う。だけどわたしは無性につまらなくなって、えい、コンビニへ行こうと思った。ひとつ理由だってある。今日のわたしは圧倒的に野菜が足りないと思ったのだ。野菜不足は便秘と肌荒れを女子に起こします。野菜ジュース。そんなものは私固有の冷蔵庫には入っていない。だからコンビニまで行こうと思ったのだ。鏡を見る。人相が悪いってまでは思わないけれど、確かに今、面白くもなさそうに、憮然と映っている鏡の中のわたしは確かに愛想なしだ。わたしは薄くおしろいを塗って、口紅をつけた。そして部屋着のスウェットのワンピースにピーコートを着て、出ていこうとしたとき、思いついて白地に赤の緑のチェックのマフラーをぐるぐる巻いた。それは主張しすぎないけれど、「メリークリスマス」っていうわけだ。みなさんメリークリスマス。わたしはイヴは男性と銀座で食事をして、その後その男性のお宅にお泊りっていうわけ。なんて、そんなのあるはずない。あるはずないんだ。きっとその日は誰に言うわけでもないまま、ミンクピンクの7分袖のニットを着てミニスカートを履いて、もちろん、ムートンのコートとパンプスを履いて、仕事をして、帰り路、売れ残って安くなったチキンと、ショートケーキを買って、部屋で一人でクリスマスっていうわけになるだろう。

 わたしはセブンで考えてしまった。確かに野菜ジュースを買いに来たのだから、かごには「1日分の野菜」は入っている。けれどなにか甘いものが欲しかった。とてもとても甘いもの。そう、ショートケーキでもないし、モンブランでもない。もちろん杏仁豆腐でもない。わたしは様々悩んだ結果、黒糖饅頭を2つ買った。

 そして家に帰るとお湯を沸かした。どうしてわたしがつまらないのか、今日一日、緊張して唾を何回も飲み込んだのかわかってる。お湯が沸いたピーッと言うやかんがやかましい。1Kなのに立ってその火を止めようとも思わない。だって今、考えないようにしていたこと、それを考えるのをやめようと、止めようとして買ってきた黒糖饅頭を食べている最中、あーーー、このピーっていう音うるさい。本当にいつもいつもわたしの人生、愛想がよくて、みんなに好かれる、愛されるわたしの人生を邪魔してきたのはこの音だ。だれかが手を差し伸べる。その瞬間にまるで警報機のように、このやかんはピーッと鳴りだす。そしてその手はひっこめられ、もう二度と差し伸べられないし、その手を握るチャンスを失う。このとても甘い塊を、十分に味わって、その微細な黒糖さえかぎ分けて、ゆっくりと味わうべきこの黒糖饅頭を味わう邪魔、これを邪魔するのは他でもない、このやかんだ。捨ててしまいたい。今わかっていること。それはあの青年を思い出したくなかったっていうことだ。クリスマスは銀座で男性とディナーを食べ、その男性の高級マンション、そう、ヒロコの家にあったような大きな威張ったテレビやオーディオ機器がたくさんある、そんな男性の家へのお泊り、そんな想像で甘い黒糖饅頭を今電話がかかってきたら、しゃべれないから、出られないっていう感じで、口いっぱいにほおばって、甘くて甘い塊で、それをほおばって、死にいざなわれる、そんな感覚を「メリークリスマス!」っていう感じでいざなわれ、それでいい、そうそれでいいと思いたかったのに、やかんが邪魔をした。

 わたしはやっとガスを止めた。ガラスの急須にお茶っぱを入れる。ティーバックのお茶はわたしの子供の頃の限定のお茶だ。新幹線で飲んだ。名古屋に行く途中だった。動物園と植物園に行った。どうしても忘れられない出来事があった。わたしが家族に、

「どうして、この階段は一段一段が広く作られているか知ってる?」

と聞いた。みなわからないと言う。

「あのね、これは、馬がこの階段をね、登ったり下りたりするようにね、広くできてるっていうわけなの」

って説明したら、お母さんにもお父さんにも、おい、お前よくそんなこと知ってるなって言われて、妹には

「お姉ちゃんて、すごーい」

と言われたのだ。そう階段が広いのは馬のため。そうよ。階段が広いのは馬のためなんだから。

 お茶に口をつけたら、とても飲めないほど熱い。あつって声をあげて、泣き出した。あの名古屋の思い出。それと青年の顔が二重写しのように見える。それらが涙で絵の具をとかしたような水にも見える。明るくて様々な色々。何もかもにじんでいる。死へのいざない。それはカラフルな色々だ。なにをしようかなって考える。そしてしたいこともすべきことも見つからない。カラフルだ。様々な色だ。

 その時やっと電話が鳴った。お母さんかなって思ったら、ヒロコだった。

「どうしたの? わたし今ゆっくりとお茶を飲んでる最中なんだけど」

「電話に出ていきなりそれじゃ、愛想がないだけじゃない、彼氏だって作れないわよ」

「妙に威張ってるテレビみたいな言い方ね。それって」

「威張ってるテレビ? ふうん」

「用件は? 端的に言ってほしいけど」

「あんたって本当に相変わらずね。まあ、クリスマス、予定ないでしょ」

「クリスマス、予定ないでしょ、っていうあなたの方が、相変わらずだって思うけど」

「でも、ないんでしょ?」

「まあ、ないけど」

「それなら、渋谷にあるレストランを借り切って、旦那の友達がパーティーを開くことになってね。それでご友人もよかったら一緒にっていうわけ。端的でしょ?」

「いつもとても長ったらしい、あなたにしては端的だってけど、断るわ」

「どうして?」

「わたしはTシャツを着て黒いスキニーを履いて、エンジニアブーツを履いているような、そんな人がタイプなの。別に懸命にダイエットをして懸命におしゃれをして、そんなパーティーに出席しようなんて思えないわ」

「じゃあ、あなたはずっと独身よ」

「どうして?」

「だってあなたって人は光る汗を追い求めているんでしょ?」

「まあ、それに近いけど」

「その汗をかく人は、あなたを探してはいないし、探していたとしても、その汗は近くに寄ればむっとするほど、汗臭いのよ。それは間違いなくね」

「わたしにとって、それはギラギラよ。わたしが求めているのはね、キラキラなの」

「キラキラした汗をかく人は更にキラキラしたものを探してる。自分から、最初っから、パーティーに参加しないのなら、その人に出会う確率は恐ろしく0に近いのよ」

「ごめん。でもパーティーには本当に参加したくないな。だってわたし今49キロよ。大きな図体をしていい歳の独身女がパーティーに参加って、なんだかみじめだって、みじめな結果しか待ってないって、そんな気がする」

「まあ、いいわ。当日まで考えて。当日でも遅くないから」