今考え中だ

こじらせ中年って多いですよね。恋愛市場引退したいような、それでいて、私だってまだまだ的な。「まだまだ、ときめいていたいっ」っていう完璧リア充も多いけど、一方で、わたしなんて、いやー、もう、でも?みたいな人も多いと思うんです。つまらない日常からどうやって目をそらしてこう?というヒントが提示できたらという作品を書いていきたいと思っています。また、考えすぎて頭がバカとか変態になっていしまった方へ向けてのメッセージも込めてます。若い人にも読んでいいただきたい!死ぬからさぁ。

新連載4:猫とベイビー

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かなり長いことトイレに入っていたらしい。ゆきはタオルケットにくるまるようにして、寝息を立てていた。もちろん俺もその傍らに横になるつもりだった。そして寝ているゆきに異常に興奮を覚えたんだ。はじめは柔らかく背に腕を回して起こそうとしたが、次の瞬間少し乱暴にタンクトップをまくり上げ、ショートパンツも脱がせて

「何?」

というゆきの口をふさいだ。俺は結局柔らかく、キズなどつけないよう、丁寧に抱こうと思ってたんだけど、そうできなかったんだ。そして俺がトイレから出てきたとき、もしゆきの目がパッチリ開いていたら、そんな第2戦目はなかったんだと思う。もしゆきが目を開けていて、第2戦目を始めたとしたら、第1戦目と同じ結果に終わったと思うんだ。もし目に意志が宿っていたら。

 

もし僕が万物の創造主になれたなら

 

君に

 

君によく似た芍薬の大きな花束と

キラキラ輝くダイアモンドと

アンティークなイス

 

みんなみんなプレゼントする

 

もし君がそれらを欲しいと願うのなら

今、僕はどうしたって万物の創造主っていうやつになってやるって

そんな気概が湧いてくるんだ

 

もし君がそれらを欲しいと願うのなら

 

 

 

深夜3時過ぎ、俺はゆきに起こされた。物腰が優しく、っていう起こしかたじゃないんだ。俺は何発もゆきにびんだをされた。俺は一瞬何が起きているのか分からず、

「なんだよ」

と声を荒げてしまったら、

「最近じゃ、とんとモテないんでしょう」

とつまらなそうに言って、またびんたをする。俺はだんだん理解した。この部屋はゆきの部屋でさっき、ゆきを抱いたんだっけ。今俺の顔をびんたしているのはゆきだ。

そして俺は「なんだよ」と昔モテたころの女に対するような、そんなぞんざいな言葉と態度をとってしまったことを、突然の歯痛のように後悔する。

 そして目を開け起きると、そこにすっぴんのゆきがいて、なおも俺の顔をびんたし続けようとしたので、俺はあわてて、ゆきの腕をつかんだ。そうさ、俺は小学校の頃、少林寺拳法を習っていたんだ。

 それにしてもゆきはすっぴんだった。昨夜は確か「そこまでは、親しくない」とかそんなことを言っていなかったっけ?俺は首肯し、確かに了解だ、という旨をゆきに伝えたはずなんだ。それともなんていうんだろう、したからと、それを指して、「俺と親しくなった」とゆきの中で思ってくれたんだろうか。

 「私が電気をつけて私がすっぴんでいることに対して、何らかの意味をつけないで頂戴ね。そして何度も『健二君』と呼んでも、身体をゆすっても、健二君は目を覚まさなかった。それでびんたを繰り返した。何回ものびんたに対する意味はそれよ」

「俺を、親しい男と認めてくれたのか?」

「さあね」

見るとコーヒーテーブルに満載だった、空き缶や菓子の袋、ウインナーが盛られていた皿なんかは、きれいに片づけられていた。そして俺がウインナーを食べるた時に汚してしまったケチャップの跡も消え去っている。布巾でテーブルはきれいに拭かれたのだろう。そのテーブルに青くて、蓋のある灰皿で、ゆきはたばこを吸っている。その動作は柔らかいものの、女郎のような、なんていうだろう、女性がやけっぱちになって、「どうでもいいのよ。疲れてるんだから早くして」というような雰囲気が漂っているんだ。俺は少し理解した。セックスを終えて変わるのは男だけじゃない。女もだ。しかし俺たちのケースの場合、変わったのはゆきで、俺は変われないんだ。どうしてかっていうと俺は、何かを手に入れたっていう、安心感を持てないでいる。

 「とにかく私はお腹が空いたの」

ゆきはたばこを吸い終えると、ベッドで上半身を起こし、ぼんやりしている俺に言う。

「あなたはラーメン屋でしょう?それ以外の特性なんて見当たらないわ。ラーメンを作ってちょうだい」

俺は絶望した。どうやらゆきが俺を選んだのは、俺が、ラーメン屋で働いている24歳、いや、「ラーメン屋で働いている」かららしい。それ以外の特性なんて見当たらない。俺はこれからどうして生きていけばいいのだろう。そこまで絶望した。死ぬしかないのだろうか?俺はラーメン屋で時給で奴隷のように働いて、動けなくなったら、介護ヘルパーを呼び、下と風呂の世話をしてもらい、そしてしばらく生き、そして死んでいく。そんな未来しか俺にはないのならば、今いっそ死んでしまった方がいいんじゃないだろうか。そして再度回顧するんだ。もしかして俺が大学を結果中退となったのは、俺が自分自身で思っているほど、モテなかった。そこに尽きるのではないかと。ラーメン屋に働く女だっている。ちょっと可愛い子だっている。俺はそんな子がバイトとして入ってくると、少し意識してしまう。でも彼氏がいたりとか、ほかの奴にかっさらわれたりとか、そんな風に尻すぼみになってしまう。そうだ。多分大学入学時18歳から今まで、計6年間俺はモテていない。というか女性と付き合っていない。一回のぞき部屋にいったことはある。それだけだ。そののぞき部屋で体験したことは猛烈な「助けてくれ!」という誰に助けてもらいたいのか分からないが、そんな気持ちと、自分がどんどんバラバラになっていくような、そんな吐き気がするような気分を味わった。それだけだったんだ。だから俺はデートの6回、その

間喫茶店でゆきの爪しか見ることができなかったのだし、うまくふるまえなかったんだ。過去、そうだ、俺が感じるより遠い過去なんだ。その過去、中学高校とモテたって、それはずいぶん前の話で、俺は今現在モテるっていう男じゃないのかもしれない。だからゆきだって俺にラーメン屋以外の特性を見つけられなかったんだろう。俺は黙って作戦を練った。俺にラーメン屋であるという以外の特性が、今現在ないのならば、それ以外の特性を身に着けるほかはないのかもしれないが、とりあえず現在、ゆきが俺がラーメン屋で働くという特性で俺を選んだのだとしたら、今の急務はおいしいラーメンを作ること、それ以外にないんじゃないだろうか。しかし困った問題が、俺とゆきの恋路を阻む。

「めんてぼがないんだ」

「めんてぼ?」

「うん、めんてぼだ。俺はその『めんてぼ』を漢字で書くすべがあるのかさえわかっちゃいない。けれどラーメンを作るには、絶対にめんてぼが必要なんだ。めんてぼ。これを俺が今持っていたらなあ!」

「めんてぼ?それって何をするためのものなの?」

「ほら、ラーメン屋でカウンターに座ると、見ることがないかい?あの麺をシャン、シャン、シャンとする奴。あれなんだ」

「ああ、私も見たことがあるわ。しゃしゃしゃってやるやつね」

「違うんだ。しゃしゃしゃじゃない。シャン、シャン、シャンってやるやつだ」