イラストbyユペたろ~ 「モデルルームにご案内します」 「あのね、その物件が、わたしがとっても気に入るものであってもね、わたしは絶対にあなたからは買わない。それは絶対なの。フィンガーボールの水を飲むその王女の崇高さ。あなたも見習った方がいい」 …
イラストbyユペたろ~ tamami2922.hatenablog.com 11tamami2922.hatenablog.com 8tamami2922.hatenablog.com tamami2922.hatenablog.com 5tamami2922.hatenablog.com mami2922.hatenablog.com tamami2922.hatenablog.com
イラストbyユペたろ~ そしてこの前、中年の女性に罵声を浴びせられた。 「なんだい、この、愛想のない女は、受付のくせして笑いもしない。いやな女だ。わたしはスピッツを三匹も飼ってるんだよ。貧乏人じゃない。貧乏人扱いするんじゃないよ」 と。私はそれ…
イラストbyユペたろ~ 楽しい想像は止まらない。赤信号で立ち止まる。それと一緒にマンションの夢想からも少しだけ覚める。信号の向こうにはわたしが住む予定の、マンションがあるみたいだ。そして気づいた。信号の向こう側には、あの青年がいた。ふっと「忍…
イラストbyユペたろ~ お風呂からでる。ショーツ一枚の姿で、体重計に乗る。そしてパジャマを着て、お手入れをする。わたしの心はどんどん小さくなっていく。そして石みたいに固まる。もう入れ物だってとっても小さい。点にしかそれは見えない。太っているく…
写真提供by知人I氏 ・吉本氏 亡くなって何年なんだろう。 わたしと吉本さんの出会いをかきます。まず今持ってないし、本の題名も覚えてないんだけど、なんか、吉本さんと、田原さんという精神療法の研究をやっている方の対談の本があって、それを読んで、「…
やっぱり考えるまでもない。渋谷でのパーティーとかなんとかは断ろう。あの時はそう答えて、そう思った。確かに「進もうと思わなければ止まっている」というのは本当だ。日常のルーティンをおろそかにしたくはない。怠惰へ落ちていくのはいやだ。だからお弁…
そうそんなことを考えながらムートンコートを着たわたしを誰もがステキ女子だと思っているだろうと思いながら通勤した。ステキ女子? ばかばかしい。わたしはただの冬ごもりをする前の、やけに鮭ばっかり食べているクマにしか過ぎないのだ。そう、昨日わたし…
渋谷の貸し切りのレストラン。クリスマスパーティー。なにかを飲んだり食べたりしたら、パウダールームでコンパクトを開き、口紅を直す。それを羨ましいと思う。クリスマスを主張しすぎない、でもクリスマス仕様のマフラーを巻いてセブンで黒糖饅頭を買う私…
そこまで思ったら、なんかシラッとした気分になった。そうね、確かにここまで育ったのはお父さんとお母さんのおかげ。それもある。でも途中からはお父さんお母さんに育てられながらも、たくさんの人や物ものに育ててもらった気がする。死んでしまおうかって…
わたしは 「いつ?」 と尋ねる。意味がよくわからない質問かもしれない。けれど風のたてるビュービューという音のせいなのか、波のどすんどすんとテトラポットにぶつかる音のせいなのか、青年にはわたしの言葉が届かないみたいだ。そして今度は 「どこから?…
「まだ、アップルパイもホットココアも半分以上残ってる。もうちょっといてくれよ」 わたしは今度は「いてくれよ」と言われた。そう言われた。「いてくれよ」、と。わたしはその言葉に打たれた。深い安堵を感じた。そして座り、アップルパイを手に取った。ま…
でも「順調に進んでる」って言っていいのかなって思う時もそれはある。だって彼氏がいたことなど、人生のうち、一回もないのだから。それでいいのかなって思う。時々すっごく思う。誰にも言えないけれど三十のわたしはまだ処女だ。そういう女子っているのか…
それにしてもあの話には驚いちゃったな。でもなあ、そういうの、もう当たり前なのかな? だってヒロコとわたしは同級生。だから来年三一才になるわけだ。そうして旦那さんがいて、ヒロコだって美容部員として百貨店で働いているのだから、そういうマンション…
今は2015年12月25日、0時29分だ。つまり今日はクリスマスであって、昨日はクリスマスイヴだったわけだ。イヴ。それを人は大いに祝う。誕生のわくわくに誰もがじっとしていられないのだ。 そう、わたしもだ。順ちゃんが買ってきたオードブルとチキ…
俺はそこで深呼吸をした。話しながらブレスの瞬間がうまくつかめない。 「俺はデートの最中、いつもゆきの爪ばかり見ていただろう?それは爪が貝殻みたいできれいだっていうこともあるけれど、それは他にも理由があるんだ。つまり、君の目を見れなかった。顔…
俺はやっとスマホを取り出し、少しいじってみる。そして電話帳を開けて、ただスクロールする。ダメだった。そんな心境で電話をしたら、俺の声はのどを狭められ、うまくしゃべれないだろう。そして泣きたい気持ちにもならない。終わりを見るときは他人は涙を…
そして緞帳がまた開く。向かいのホームに赤いラインの走った電車が止まり、乗客を吐き出してから吸い込む、そう深呼吸するようにして、また走り出す。そうだ。俺の目の前の緞帳は開かれ、何かが走って行った。始まるのだ。俺の冒険の第2章が。俺は腕が震え…
俺はゆきにキスをした。居ても立っても居られないっていう風に。何度も角度を変えて、長く、長く、ゆきの唇にキスをした。 「苦しい、息ができないじゃない」 そう言ってゆきは笑うが俺は笑わない。 その時初めて知ったんだ。意志を持つ、人格のある、心のあ…
ゆきはおれの話を聞きながら、マルボロのゴールドに火をつけ、ふーっと吐いた。そして俺の話が終わると、それだけ?とでもいうような表情をして、こう言うんだ。 「私の元にはそんな話はいくらでも転がってるの。大抵の男性が似たようなことを家の玄関で宣言…
「ゆき、今はそのタイミングかい?」 「タイミングってなんのこと?」 「ほら、さっきゆきが言ってたじゃないか、そのタイミングでって」 「忘れちゃったわ。忘れちゃったけど、きっと今はそのタイミングじゃない」 「そうか」 「ああ、豚ちゃんを見ながら言…
俺の気に入っているディーゼルの黄色い腕時計を見ると今3時40分だ。分からない。よくわからない。間に合いそうにない。もし間に合わなかったら、何度も味わっている絶望だが、その時に世界で最も大きな絶望が俺を見舞うのだろう。そして俺は立っていられ…
俺は地雷を踏んでしまった。ゆきはめんてぼの描写を俺になおされたことが我慢ならなかったらしく、へそを曲げた。 「ゆき、覚えているかい?俺がゆきに差し出した花は、決して俺のへその緒なんかじゃない。シロツメクサだ」 「じゃあ、私も言わせてもらえば…
かなり長いことトイレに入っていたらしい。ゆきはタオルケットにくるまるようにして、寝息を立てていた。もちろん俺もその傍らに横になるつもりだった。そして寝ているゆきに異常に興奮を覚えたんだ。はじめは柔らかく背に腕を回して起こそうとしたが、次の…
「ずいぶん長かったわね」 「うん、バスタブのある風呂って久しぶりだったんだよ。俺の部屋にはシャワーしかないんだ。けれど、いずれはバスタブのあるマンションに引っ越そうと思ってる。ちなみにそれは近々なんだ」 と俺も自分で言いながら、妙だな、と思…
彼女の部屋は目黒の川沿いにあり、こじんまりしているが、新しそうな、きれいなマンションだった。ゆきの部屋にはグレーの毛足の長いカーペットが敷かれていて、その毛足が一糸乱れず同じ方向を向いている。ゆきに差し出されたスリッパを玄関で履いてみても…
覚えていてほしい。忘れないでいてほしい。何世代にもわたって覚えていてほしい。忘れないでほしい。それが無理ならこの現在、生あるうちは、勇敢だったとらネコ「メロチュ」を覚えていてほしい。お願いだ。忘れないでおくれ。 メロチュはマンションについた…
・お墓参り ある悲劇のロックシンガーが死に、わたしたちはその数年後墓を参った。ダーリンの強い勧めがあったからだった。思ったよりもこじんまりした墓で、墓には花が供えられていたけど、その花たちはしおれていた。 このいま、そこにいたのはわたしとダ…
俺を拾ってくたのは、紀子ちゃんっていう大学生だった。紀子ちゃんはバイトの帰りだった。 紀子ちゃんは古本や、中古のゲームなんかを売る店で働いていて、値段をつけることも店長に任されていて、すごくかっこよく見えたから、俺はつい、ついて行ってしまっ…
玉蘭坂 彼はもともとブラウン管の中にいた そういえばそうだった わたしの客席から、彼のステージは遠かった そういえばそうだった 彼は今もブラウン管の中にいるし ユーチューブなんてある今、 彼に会うことは当時より頻繁で 簡単なことなのさ そう、CDだ…